退職を求められそうなとき・解雇されそうなとき、どんな資料を集めておけばいいですか
2025/10/20
結論
どのような資料が重要になるかは事案ごとに異なりますが、一般論としては、次の3種類を手元に保管しておくことをお勧めします。
- 会社との労働条件の内容が分かる資料
- 会社の言い分が分かる資料
- その会社の言い分が正しくないことが分かる資料
このほか、書面に残っていない面談などのやり取りは、記録を残しておきます。退職の話が出ると、社内システムへのアクセスができなくなり、資料を見られなくなることがあります。手元にあるものをまとめておくことをお勧めします。
目次
- 会社との労働条件の内容、労働環境が分かる資料とは
- 会社の言い分が分かる資料とは
- 会社の言い分が正しくないことが分かる資料とは
- 裁判例では、どのような資料が判断を分けていますか
- 書面に残っていないやり取りは、どう残せばよいですか
- いつまでに、どこまで集めればよいですか
- まとめ
会社との労働条件の内容、労働環境が分かる資料とは
あなたの雇用の出発点を示す資料です。退職の条件の話し合いも、解雇の有効性の判断も、ここから始まります。主なものは以下です。
- 雇用契約書、オファーレター(Offer Letter)、労働条件通知書
- 就業規則と、賃金・賞与・退職金に関する規程
- 給与明細・賞与明細、源泉徴収票
- 株式報酬(RSU・ストックオプション等)の付与通知、プランの規程、権利確定のスケジュール
会社の言い分が分かる資料とは
会社があなたについて何を問題にしているかが書かれた資料です。
- 評価の通知、警告書、PIP(業務改善プログラム)に関する書面
- 退職条件の提示書、退職合意書(Separation Agreement)の案
- 解雇予告通知書、解雇理由証明書
- 評価や業務上の問題を指摘したメール・チャット
変更がある場合は、変更前のものも、後のものも役立つことがあります。
会社の言い分が正しくないことが分かる資料とは
会社の言い分の一つひとつについて、それが事実と違うこと、一面だけを切り取ったものであることを示す資料です。
会社が退職を求める理由や、解雇の理由として挙げることには、事実と違う部分や、一面だけを切り取った部分が含まれていることがあります。会社の言い分が分かったら、その言い分ごとに、反対の資料を手元にまとめておいてください。会社の説明に出てくる時期の前後のものを、優先して確認します。
会社がよく持ち出す理由と、反対の資料の例は、次のとおりです。
(1) 能力不足・成績不良と言われている場合
会社がよく言うこと:目標に届いていない/期待される水準に達していない/以前から指摘していた
反対の資料の例:
- 直近までの評価結果(評価の通知、評価システムからの連絡)
- 目標設定の記録
- 賞与・昇給・インセンティブの支給の実績
- 上司や顧客からの、肯定的な評価やお礼のメール
(2) 勤務態度・協調性に問題があると言われている場合
会社がよく言うこと:周囲から苦情が出ている/コミュニケーションに問題がある/注意しても改まらない
反対の資料の例:
- 問題とされている上司・同僚との、ふだんのやり取り
- 問題とされた出来事について、その前後の経緯が分かるあなた宛ての連絡
- 以前は注意や指導を受けていなかったことが分かる資料(過去の評価など)
- あなたの側から、上司や人事に相談・報告していた記録
(3) 業務命令に違反したと言われている場合
会社がよく言うこと:指示に従わなかった/報告を怠った/出社や配置転換に応じなかった
反対の資料の例:
- 命令の内容と時期が分かる、あなた宛ての連絡
- その命令に対する、あなたの返信や対応の記録
- 命令の前提となる決まり(職務の内容、勤務地、在宅勤務の扱いなど)が分かる資料
- 命令に応じられなかった事情があれば、その事情が分かる資料
(4) ポジションクローズ・組織再編を理由にされている場合
会社がよく言うこと:あなたのポジションがなくなった/本社の決定だ/代わりの職はない
反対の資料の例:
- 組織図
- 直前まで、あなたの業務が続いていた、又は拡大していたことが分かる資料(目標設定、採用の計画など)
- あなたが受け取った、組織変更についての全社・部門向けのお知らせ
- あなたの業務の引継ぎ先についての連絡
- 同じ種類のポジションの社内外の募集に関する資料
どの資料が決め手になるかは、会社が理由をどう立てているか、手続をどう踏んでいるかといった、事案の類型によって異なります。
裁判例では、どのような資料が判断を分けていますか
会社の言い分を支える資料が検証に耐えるか、それと反対の資料があるかが、判断を分けています。業績や勤務態度を理由とする解雇が争われた裁判例から、いくつか紹介します。いずれも、その事案についての判断です。
(1) 会社側の比較資料が信用されなかった例
記者の解雇が争われた事件で、会社は、他の記者14名と記事の本数などを比べた表を出しました。しかし、記者本人の側が求めても、比べた記者の氏名が明らかにされなかったため、控訴審は、比較の対象として適切か、本数が正確かなどについて記者本人の側で反論のしようがないとして、この表を信用しませんでした。かえって、記者本人と同僚2名の記事の本数を記載した表から、本数は同僚と遜色がないことがうかがわれるとしました。この記者は3回のPIP(業務改善プログラム)を経て解雇されていましたが、具体的な数値で設定された課題をほぼ達成していたことなども踏まえ、解雇は無効とされています(ブルームバーグ・エル・ピー事件。東京地判平成24年10月5日 労判1067号76頁、控訴審 東京高判平成25年4月24日 労判1074号75頁)。
(2) 過去の評価や改善の実績が考慮された例
同じ事件で、裁判所は、問題とされたコミュニケーションについて、以前の年度末評価では会社自身が求められる水準を満たすと評価していたことから、能力の不足が恒常的なものとはいえないとしています。
また、業績が不良であること自体は認められた事件でも、裁判所は、過去にPIPを実施して業績評価が改善した実績があることや、会社が配置転換や降格などの措置をとらずに解雇したことなどから、解雇を無効としました(ノキアソリューションズ&ネットワークス事件。東京地判平成31年2月27日 労判1257号60頁)。
(3) 会社の記録が積み重なり、解雇が有効とされた例
反対に、会社の側の記録が積み重なっていた事件では、解雇が有効とされています。勤務改善指導書を2回受けた社員の事件では、送信時刻まで特定されたメールのやり取り、顧客からの苦情、指導書とそれに対する本人の回答書面などから、継続的な教育・指導をしたにもかかわらず改善しない状態にあるとされました(日本マイクロソフト事件。東京地判平成29年12月15日 労判1182号54頁)。また、マネージャーとして中途採用された社員の事件では、作成した報告書や、上司の具体的な指摘のメール、本人が上司に宛てたメールなどから、指示や指導に対して消極的な手直しにとどまっていたとされ、解雇の効力を争う仮処分の申立てが認められませんでした(コンチネンタル・オートモーティブ事件。東京高決平成28年7月7日 労判1151号60頁)。
会社の側も、評価の記録やメールを資料として出してきます。会社の言い分の一つひとつについて、反対の資料を手元にまとめておくことが大切です。
書面に残っていないやり取りは、どう残せばよいですか
面談の直後に、日時・場所・出席者・言われたことを、メモに残してください。
ご自身の言葉で要約するより、相手が言った言葉のまま書く方が、後で役に立ちます。時間が経ってから思い出して書いたものより、直後に書いた記録の方が信用されやすい傾向があります。後から書き足すことは避けてください。
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いつまでに、どこまで集めればよいですか
在職中で、社内のアカウントが使えるうちに、手元にあるものをまとめておいてください。
退職の話が出たその日に、社内のアカウントが止められたり、出社を禁じられたりすることがあります。会社との関係が表面化してからでは、手が届かなくなる資料があります。
集める範囲は、あなた宛てに交付されたもの、あなたについて書かれたもの、あなたが当事者になっているやり取りが中心です。手元にないもの(会社のシステムの中にしかないもの)は、何が・どこに・いつ頃あるかを把握しておくと、後で役に立つことがあります。
なお、会社のPCや社用メールで、弁護士への相談や転職の準備をすることは避けてください。会社のシステムは会社が管理するものであり、必要があれば内容を確認することができるとされています。
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まとめ
- 集めておきたい資料は、労働条件の内容が分かる資料、会社の言い分が分かる資料、その言い分が正しくないことが分かる資料の3種類。
- 会社の言い分が分かったら、その言い分ごとに、反対の資料を手元にまとめておく。
- 裁判例でも、会社の資料が裁判での検証に耐えるか、反対の資料があるか、という点が判断を分けている。
- 書面に残っていないやり取りは、面談の直後に、相手の言葉のままメモに残す。
当事務所は、退職勧奨・解雇の案件に多数の解決実績があります。退職勧奨や解雇の段階に至ったら、ご相談ください。
執筆 キャリアディフェンダー法律事務所 代表弁護士 南摩雄己
事業会社4社で法務部門のシニアマネージャーないし法務責任者を務めたのち、労働者側の解雇・退職勧奨・退職条件の交渉を中心に扱う。弁護士紹介
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