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PIP(業務改善プログラム)の対象になったら、何をしておくべきですか

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PIP(業務改善プログラム)の対象になったら、何をしておくべきですか

PIP(業務改善プログラム)の対象になったら、何をしておくべきですか

2026/10/26

結論

PIPの対象になったら、PIPが退職勧奨や解雇の前段階として使われることが多いことを前提に、次の5つを始めてください。

  1. 業務命令として、誠実に取り組む
  2. 不当な書面には、その場で署名しない
  3. PIPの名で示される会社の主張について、反論できる資料を確保する
  4. 目標と評価の基準を、書面で確認する
  5. 経緯を、日付とともに記録する

PIPの目標に届かなかったからといって、それだけで解雇が有効になるとは限りません。一方で、PIPの期間での対応次第で、その後の退職に係る交渉や、裁判を有利に進めることができます。

目次

  1. PIPとは、どのような制度ですか
  2. なぜPIPは、退職勧奨や解雇の前段階になりやすいのですか
  3. PIPを達成できなければ、解雇されてしまうのですか
  4. PIPの目標が妥当かどうかは、どう見ればよいですか
  5. PIPの期間中に、何をしておくべきですか
  6. PIPの期間中に、してはいけないことは何ですか
  7. PIPの最中に、退職の条件を示されたらどうすればよいですか
  8. 試用期間中にPIPの対象になったら、何が違いますか
  9. まとめ

PIPとは、どのような制度ですか

一般的に、PIP(Performance Improvement Plan/業務改善プログラム)とは、業績や行動に課題があるとされた社員に、期間と目標を定めて改善を求める制度です。各会社で、別の名称(業績改善計画、コーチング・プランなど)がついていることがありますが、この記事ではPIPという呼称で統一します。

期間は30日から90日程度が多く、達成すべき目標が書面で示されます。期間中は、上司や人事との定期的な面談で進捗が確認されます。外資系企業で広く使われており、日系企業でも同じ趣旨の制度を導入する例があります。

なぜPIPは、退職勧奨や解雇の前段階になりやすいのですか

日本では解雇が有効と認められるハードルが高いため、「改善の機会を与えたが、改善しなかった」という記録を作る手続(いわば解雇のアリバイ作り)として、PIPを使う会社が多いからです。

日本の法律では、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合、無効になります(労働契約法16条)。外資系企業でも、日本法人に雇われている方、日本で働いている方には、この規制が及びます。本社の方針だと説明されても同じです。

よく見られる流れは、次のとおりです。

段階 会社の動き
1 低い評価、又は「コーチング」「フィードバック」の面談
2 PIPの通知と実施
3 「目標未達」の認定
4 退職勧奨(退職の条件の提示)、応じない場合のさらなる措置

本当に改善を期待して行われるPIPもあります。それでも、評価の低下、コーチング、PIPは、退職勧奨の前段になることが多いものです。PIPの期間は、会社にとって、解雇を正当化するための記録を積み上げる期間として機能します。同じ期間を、あなたの側も記録を整える期間として使えるかどうかで、その後の展開は大きく変わります。

PIPを達成できなければ、解雇されてしまうのですか

PIPの目標に届かなかったことだけで、解雇が有効になるとは限りません。

能力不足を理由とする解雇が有効かどうかは、一般に、次のような事情を総合して判断されます。

  • 会社があなたに求めていた役割と能力の内容
  • 能力の不足の程度(業務に支障が生じるほどか)
  • 改善の機会が与えられていたか、その機会が実質的なものだったか
  • 他の業務への配置など、解雇以外の手段を検討したか

PIPは、このうち「改善の機会」に当たる手続として会社から主張されます。しかし、目標があいまいだったり、達成できない水準だったり、必要な指導や支援がなかったりすれば、十分な改善の機会を与えたとは評価されにくくなります。外資系企業で、PIPを経た後の能力不足を理由とする解雇が無効とされた裁判例は、複数あり(ブルームバーグ・エル・ピー事件・東京高判平成25年4月24日・労判1074号75頁、ノキアソリューションズ&ネットワークス事件・東京地判平成31年2月27日・労判1257号60頁)、PIPが実施され結果が未達だったとしても、直ちに解雇が有効になるとは限りません。業績不良を理由とする社員3名の解雇が争われた事件では、2回のPIPがいずれも目標未達に終わった社員を含め、裁判所は、業績不良があることは認めつつ、適性に合った職種への転換や降格、解雇の可能性を具体的に伝えたうえでの改善の機会の付与といった手段を経ていないとして、解雇を無効としました(日本アイ・ビー・エム(解雇・第1)事件・東京地判平成28年3月28日・労判1142号40頁)。

ただし、結論は事案ごとに大きく異なります。特定の職務のために高い待遇で中途採用された方は、求められる水準が高く評価され、解雇が有効になるケースが見受けられます(例として、コンチネンタル・オートモーティブ事件・東京高決平成28年7月7日・労判1151号60頁〔仮処分〕)。それでも、改善の機会が実質的だったか、手続が適切だったかは問われます。

PIPの目標が妥当かどうかは、どう見ればよいですか

目標の立て方の目安として、経営管理の分野で広く使われる「SMART」という考え方が参考になります。

SMARTは、良い目標が備えるべき5つの要素の頭文字です。法律上の基準ではありませんが、PIPの目標が「改善の機会」として実質的なものかを考える手がかりになります。

要素 確認すること
Specific(具体的か) 何をすればよいかが、具体的に書かれているか
Measurable(測定できるか) 達成したかどうかを、数字や事実で判定できるか
Achievable(達成できるか) 期間・権限・人員・情報に照らして、達成できる水準か
Relevant(職務と関係があるか) あなたの職務や役割と関係のある目標か
Time-bound(期限が適切か) 期限が明確で、目標に見合った長さか

いずれかが欠けている目標は、達成できなくても、それだけであなたの能力の不足を示すとは言いにくくなります。たとえば、「主体性を高める」のように測りようのない目標や、前任者でも達成していない数字を短期間で求める目標です。

もっとも、目標の問題点を会社に指摘するかどうか、指摘するならいつ・どのような形で行うかは、後の交渉や裁判にそのまま残ります。書面を送るかどうかは、慎重に判断してください。

PIPの期間中に、何をしておくべきですか

(1) 業務命令として、誠実に取り組む

会社の言い分を真に受けて落ち込む必要はありません。しかしながら、PIPへの取組みは、業務命令として求められるものです。原則的に拒否はできません。内容に不満があっても、粛々と指示には従い、誠実に取り組んでください。PIPを拒否したり、形だけで済ませたりすると、それ自体が「改善の意欲がない」という記録になり、後で解雇が正当化される一因となってしまいます。

PIPの期間は、遅刻や報告の漏れといった、PIPとは関係のない小さな落ち度も記録されやすい時期です。隙を見せないことが大切です。

ただし、取り組むことと、書面の内容に同意することは別です。 内容に疑問があれば、指示に従いながら、書面で確認します。

(2) 提示される書面が不当であれば、署名はしない

PIPの通知書や目標設定書に、その場での署名を求められることがあります。PIPの際には、「目標未達の場合、会社が解雇を含むさらなる措置を採ることに異議を述べない」等といった内容が記載された書面へのサインを(ときとして説明なしに)求められることがあります。こういった書面にサインしてしまうと、その後の会社の対応を正当化する根拠となってしまいます。

このような書面にサインすることを拒否することは、まったく正当な対応です。書面はその場でサインせず、内容をよく確認し、不利益が無いことを確認してからサインするようにしてください。

(3) 会社の主張について、それと反対の資料を確保する

PIPの書面には、あなたの課題として、会社の主張(「成果が出ていない」「期待する水準に届いていない」「周囲との連携・コミュニケーションに問題がある」「業務命令に従わない」など)が書かれています。その一つひとつの理由について、事実と違うこと、都合よく一部を切り取ったものであることを示す資料を、手元に保管するようにしてください。

  • 目標・評価の基準(途中で変更されたら変更の経緯と内容が分かる資料)
  • 直近までの評価結果や、賞与・昇給・インセンティブの支給の実績
  • 上司・顧客・他部署からの、肯定的な評価やお礼のメール
  • 会社が問題とする出来事について、その前後の経緯が分かる、あなた宛ての連絡

関連記事:退職を求められそうなとき・解雇されそうなとき、どんな資料を集めておけばいいですか
会社がよく持ち出す理由ごとに、それと反対の資料の例を説明しています。

(4) 目標と評価の基準を、書面で確認する

確認しておきたいのは、何を、いつまでに、何をもって達成とするのか、という点です。達成に必要な情報や支援(権限・予算・人員など)が示されていない場合は、その点も確認の対象になります。

質問や確認は、口頭だけで済ませず、メールなど記録に残る形で行ってください。

PIPの進め方や目標について、異議を唱えておく方がよいかは場合によります。目標や評価の前提に事実と違う点があるときは、その点を書面で正しておくことに意味がある場合もあります。一方で、目標のあいまいさや期間の短さといったPIPの作り方の不備は、PIPの最中に指摘すると、会社に作り直しの機会を与えることにもなってしまいます。対応は慎重に判断してください。

(5) 経緯を、日付とともに記録する

会社はPIPの期間中の記録を残しています。あなたの側にも記録がなければ、期間の終わりに、会社の記録だけで評価が決まってしまいます。次のことを、時系列で記録しておいてください。

  • 取り組んだことと、その成果(数字・成果物・期限を守ったこと)
  • 面談で言われたことと、あなたが答えたこと
  • 目標の変更や、追加の指示があったときの、その内容
  • 面談の録音がある場合は、その日時と状況

PIPの期間中に、してはいけないことは何ですか

  1. 「辞めます」など、退職の意向と受け取られる発言をしない:「合わないなら辞めます」「転職先を探しています」といった一言が、自ら辞める意思の表明として扱われることがあります。退職条件を交渉したい場合、会社に残りたい場合、いずれにおいても、こうした発言は不利に働くことになるため、本当に退職するタイミング以外言わないことをお勧めします。
  2. 感情的なメールや発言をしない:PIPへの不満を感情的にぶつけた文章や発言は、そのまま不利な記録として残ります。冷静に、事実と質問で対応してください。
  3. 会社のPC・社用メールで、弁護士への相談や転職の準備をしない:会社のシステムは会社が管理し、一般的にも、必要があれば会社が内容を確認することができるとされています。ご相談は私用の端末とアドレスで行ってください。
  4. 株式報酬の資料の確保を後回しにしない:RSUやストックオプションをお持ちの場合、関連する資料一式を、アクセスが遮断される前に保全してください。気が付いたら資料を回収できなくなっていた、というケースがあります。

PIPの最中に、退職の条件を示されたらどうすればよいですか

その場で返事をせず、書面に署名しないでください。

PIPの途中や終了の直後に、「PIPを続けるか、この条件で退職するか」という形で、退職の条件(退職パッケージ。特別退職金・割増退職金とも呼ばれ、外資系企業ではseverance packageともいいます)を示されることがあります。回答の期限を短く区切られることも少なくありません。

退職の条件には、交渉の余地があることが少なくありません。一方で、一度ご自身から金額や退職日の希望を伝えると、その数字が交渉の上限として扱われやすくなります。

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試用期間中にPIPの対象になったら、何が違いますか

試用期間中でもPIPは行われることがあり、その場合は、本採用をしない(本採用拒否)という判断につながる可能性に注意が必要です。

試用期間中の本採用拒否は、法的には解雇の一種です。ただ、最高裁判所は、試用期間中の解約は、通常の解雇よりも広い範囲で認められるとしています(三菱樹脂事件・最大判昭和48年12月12日)。試用期間の満了が近い時期のPIPは、満了までの時間が短く、記録を整える余裕も少なくなります。また、会社は、後で解雇するよりも早いうちに退職させた方が成功率が高いとして、試用期間満了に併せて雇用終了を主張してくることも多いため、的確に状況を把握し、素早く対応することが重要です。

まとめ

  • PIPは、退職勧奨や解雇の前段階として使われることが多い。その可能性を前提に行動する。
  • PIPの目標に届かなかったことだけで、解雇が有効になるとは限らない。目標の妥当性(SMARTが目安)や、改善の機会が実質的だったか、というPIPの内容が問われるので、説明できるように準備をしておくことが重要。
  • 期間中は、業務命令として誠実に取り組みつつ、不当な書面には署名せず、会社の主張と反対の資料を確保し、目標を書面で確認し、経緯等を記録しておく。

当事務所は、退職勧奨・解雇の案件に多数の解決実績があります。退職勧奨や解雇の段階に至ったら、当事務所へのご相談も検討ください。

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